パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

「50にして煙を知る」 第24回 酷暑の足下に実りの秋が

千葉科学大薬学部教授 小枝義人

都心で37、2度の猛暑を記録した8月17日。

何事もなかったように、夕方から銀座でJPSCの8月例会が始まった。

「この暑さじゃ、少ないだろな」と会員がみな考えていたのだろう。 会場に入ってくるメンバーは決まって「あれー、ずいぶん多いじゃないか」と驚きの表情で声を上げている。

なんと、参加者は24名。この暑さの中、煙を楽しむ会員のパワーはすごいもんだ。

私も正直、パスしようかと頭をよぎったが、今年はまだ一度も例会のスモーキングコンテストに参加していないことが後ろめたかったのか、他の会員から「夏休みぐらい出なさいよ」と促され、来てみたが、コンテストは5月末の関東選手権以来だ。ひどい怠け者ですな。

今年のJPSCの例会タバコのテーマは「刻み方」だそうだ。

カットねえ、フレークのタバコさえ、やっかいだと思っている私の前にでてきた「本日の競技用タバコ」はドイツ製のキューブ・カット「CUBIC」。

ドイツ製といえば、去年空輸した、あの使い勝手のいいモールを思い出すが、四角いコロコロしたタバコはどうしたものかね。

選定者は「このままパイプに詰めても結構。ほぐしても結構。お好きなように」とすました顔で説明する。

サイコロステーキにも似ているタバコを指で辛抱強くほぐし、タンパーで伸ばし、さらにそれをちぎって、ようやく詰めたが、量がすくないので、パイプ半分ぐらいにしかならない。

こりゃ、長くは吸えないなあ。

会員のほとんどが初めて見るタバコらしい。さてどうやってペースを保てばいいのか。

まわりを見ながら「スタート」と相成った。

「吸ってる感じがしないな」「火がどこにあるか、吸っていてもわからんなあ」と困惑の声が飛び交う中、「10分経過」とタイムキーパー。

「まだ10分?ずいぶん長いなあ」―悲鳴に近い声も上がる。

うまいとか、吸いやすいとか、素人の私にはわからないが、初めての奇妙な味と久しぶりに格闘した。これだけは、しばらくやってないと勝負勘がずれるから苦しい。

30分を経過したところで、あっさり「消えました」とギブアップ宣言。順位はちょうど真ん中ぐらいか。

確かにつかみどころのないタバコだ。なんだかわからないうちに消えちゃった。

そこからパタパタとメンバーの火が消え始め、優勝者も50分台という夏らしい短めの記録に終った。

いくら暑いといっても、数日もすれば、夜には虫の音が聞こえ、小さな秋が都会にもやってこよう。

世話人の梶浦さんからは、「いささか気が早いですが」と11月の土浦での全国大会のお知らせが配布された。

会場の確保は禁煙の風潮の中、相変わらず大変だが、水戸パイプクラブの名誉にかけて確保したらしい。

JPSCからは全国大会の前、10月にポルトガル・リスボンで催される世界選手権に23名もの大団員を送り込む。

例会優勝者からは「日本代表で行くんだからなあ、100分は吸わないと」と威勢のいい声が聞こえてきたのは頼もしい。

暑さのこの時期を業界では「夏枯れ」というが、もう実りの秋に向けて、JPSCも始動しています。