パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』第15回
春はやっぱり桜、ちと寒かったけど 
―花・酒・パイプ、3本立て人生の人々が集った花見同行記―

桜の開花が今年は史上最速を記録、「ぼやぼやしていたら、3月中に東京以西は散ってしまうかもしれない」との危惧は、完全な空振り。

開花後、真冬並みの寒波が遅い、3月末のJPSC有志による恒例の隅田川花見は「完全防寒による決行」という悲壮な注意事項メールが回り、覚悟の花見と相成った。

当日の浅草・隅田川界隈は 昨今の不況もなんのその、日曜日とあって桜見物の人でごった返し、川を走る水上バスも行列ができているほどだ。

先発の場所取りグループの苦労も並大抵ではなかったらしい。

「いったいどこにいるのやら」、探すのに一苦労だ。携帯という便利な道具があるから、なんとかたどり着けた。

「まあまあ、1杯」とワインを注がれ、一口飲んで、改めてサクラを眺める。

「やはり、花は桜かあ」。

若いときは新学期の象徴に過ぎなかった花が、最近では「また1年無事に過ごせ、春を迎えることができた」としみじみ感じる。

日本人の死生観とぴたりと一致する花が桜なんだろう。

などという小難しい理屈は脇に置き、

中高年パイプスモーカー10人余りが集って桜の下でプカプカやっても、太っ腹の台東区、墨田区は文句なんか言わない。おでん、焼肉、ワイン、焼酎があれば、幸せこの上ない。

そういえば、たくさんの出店の看板に「即時撤去しなさい」と張り紙がしてあっても、平気で商売を続けている。

「大丈夫なのかなあ」とメンバーの1人に聞くと、「あれは張り紙をはがすと問題になるんだよ。はがさずそのまま営業していれば大丈夫」と解説してくれた御仁がいた。

「顔をつぶさず、害がなければ構わない」という大人の世界の暗黙のルールが存在する、と感心。

当方は3分咲きの桜を眺め、ひたすら飲み、かつ食い、そして吸う。

だんだん体もあったまってきた。遅れてきた森谷氏が神田須田町しのだ寿司のいなりとかんぴょう巻きを持って現れる。

「助六ゆかりの江戸桜よ」―市川団十郎の歌舞伎に引っ掛けてのお土産は粋だなあ。

当日彼からいただいた新作・会津桐のタンパーとともに、JPSCスターの雰囲気が背中から十分漂ってくるのである。

それでも4時をすぎれば、そろそろ退散だ。若くはないから、寒くなる前に引き揚げ準備と片付けに入る。

「ゴミは残しちゃいねえだろうなあ」と入念にチェック。「立つ鳥跡を濁さず」を有言実行。

帰宅したら、テレビでは世界選手権フィギアスケート本番、一週間前のワールドベースボールクラシックのイチローの夢再びと見入った。安藤美姫選手、3位カムバックは素晴らしかったが、期待の浅田真央選手、メダルを逃す

勝負の世界ではサクラは簡単に咲いてはくれない。だからこそ人生は面白い。そこまで達観はしちゃいないけど。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人