パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』第11回  落馬、落馬が続き大穴
  ―8月例会ロング・スモーキングコンテスト準優勝の怪―

8月19日夕、夏の暑さもなんのその、夏休みもなく行われた日本パイプスモーカーズクラブ例会でのロング・スモーキングコンテスト。

ハプニングは、コンテスト用タバコを持参するはずの会員のドタキャンから始まった。

このあたりがクラブの面白いところである。世話人の梶浦さんが、「こりゃあ、タバコが来ないなあ。ひとっ走り行って、銀座のタバコ屋まで誰か買って来てくれませんか」。

ほどなく本日の競技用タバコ「メローブリーズ」がやってきた。

ところが、この葉は、少々湿っぽい。

私のように、パカパカ吸う人間は、平野さんから教わったが、「葉が乾燥したら、ウィスキーやブランデーで、湿らせて吸えばいい」という言葉をよく実践している。その方が、長く吸えて、私は好きなのだ。

湿っぽいから、吹かしまくり派の私には、ちょうどいい感じで、葉が燃焼していくわけだ。

上位常連であるベテラン会員から最初「着火失敗」なんて声が出始めた。

その辺までは、よくある話だから、「ハハハ」と笑い声も出ていた。

ところが、始まって数分から20分もたたないうちに、次々に「火、消えました」という声があちこちから飛んでくる。

有力者の脱落がウソみたいに続く。「いったい、どうなっているんだい」と思っていると、外川さんに言わせれば、「湿っているから、いつものペースで吸っていると、火が消えてしまう」らしい。

気が付けば、20分すぎには、残っている人は一桁という、前例がないほどの短時間ペースのコンテストになっていた。

幸い私は、湿ったものを吸いなれており、その上、パイプは先日、森谷さんにいただいた安定性抜群のデンマーク製のビリヤード型。

「ひょっとしたら、ベスト5ぐらいには入れるかも」と欲が出てきた。

 唾液が流れないよう、ボゥルを上向きに、ペースを乱さないよう、苦手なロングスモーキングスタイルにチェンジ。

「あーあ、これは疲れるんですよねえ」なんてこぼすと、すかさず「小枝さん、話しちゃだめ。めったにないんだから、集中しなきゃ」と、とっくに火が消えた恩師・平野さんから檄が飛ぶ。

結果は48分44秒。きわめて低記録ながら、気が付けば2位という初の銀メダル獲得。

「ま、北京五輪のフェンシングみたいなもんか」なんていえば、努力を重ねてきた初の日本人フェンシングメダリストに失礼に当たろう。

不動の一位は、燃焼マニア、自称唯一のタンパー専門職人・森谷さんで、2位に10分以上の差をつけての楽々の優勝だから、さすがである。

ましてや私のパイプは森谷さんプレゼントだから、彼の手のひらで遊んでいる孫悟空みたいなもんだった。

それにしても初めて3位以内に入り、手にした入賞バッジ。

「人は利益追求だけに生きるにあらず。名誉、友情、誇りは金で買うことができない」などと有名な経済学者も書いていたが、この準優勝も、その類のものであろう。

誰も余分なことに踏み込まず、パイプとタバコに情熱を燃やす同好の士が集うこのクラブは、楽しい。

なんだか勝手な自慢話を書いてしまい、少々気恥ずかしい思いだが、これは翌日、平野さんから「準優勝の快挙達成、おめでとうございます。入会一年目にしての快挙です。パワースモーキングからロングスモーキングへのコツを習得されたと存じます。快挙達成記をぜひ連盟のホームページに寄稿下さい」というメールによる。

恩師の言葉に逆らってはいけない。「初心者の経験を書けば、何らかの足しにもなるかもしらん」という、平野氏の配慮もあろう。

ということで、いよいよ10月12日、東京・浅草で開催されるパイプスモーキング全日本選手権大会に向け、会員の皆さん、エンジンがかかりつつあるようだ。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人