パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

磁気燃焼装置

丹波作造

地球に生まれ大気を呼吸し続けてこのかた、その成分中の酸素が常磁性、窒素が反磁性を示すという衝撃の事実を知らないで過ごしてきた。本当ならば強力な磁界の中では酸素がケルビン力により凝集し、これまでとは異次元のスモーキングが実現する可能性がある。 “磁気”、“燃焼”のキーワードでネットを検索すれば、革命的な焼却炉云々の記事が多数ヒットする。臭いも出さず安定して燃焼するというくだりに一抹の不安はあるが、この現象を調査するため先端に磁石を装備したタンパーを試作した。

磁気燃焼タンパープロトタイプ(ゴルフクラブは含まない)

強力なネオジム磁石片を非磁性体のチタン製ビスで木の棒の先端に固定し実験開始。心なしかピュアな喫味の煙が煙道を通じて入ってくる。火勢を絞っても件のタンパーを用いると勢いが素早く回復する気がする。使いすぎるとスモーキングタイムが短くなる可能性もあるが、安定した低空飛行を続け此処ぞというところで用いれば好記録が生まれるかも知れない。有機物や石油製品がゆっくりと燃焼し8時間程度で真白な灰になりますという件の焼却炉の効能書きも期待を抱かせる。従来のパイプスモーキングに革命をもたらすのではという期待が沸き上がってくる。磁扮混入煙草、磁石埋め込みボウル等のビッグビジネスへの発展も想定される。

しかし効果が確認されても手放しで喜んでばかりもいられない。一部競技者の新規テクノロジー使用は不公平を伴う。来る平成二十五年十月六日に浅草で開催される、第四十回記念全日本スモーキング選手権大会入賞者のパイプ・タンパー検査においては、本実験の結果によっては炭化のみならず磁束密度計測も行うようルールの改正を検討する必要が在るかも知れない。