パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

加湿装置

丹波作造

アイデアに困った時のウィキペディアということで“難読漢字”で探してみると、
    黄蜀葵(とろろ)
    鹿尾菜(ひじき)
    ...
といった所帯染みた単語が並んでいる。それは良いとして漢字自体がおどろおどろしくて読めないだろう感が鼻につき、意外性に乏しい気がする。これでは居酒屋の品書きに使っても余り注文が来ないだろう。やはり、日常目にする字であっと驚く読みというのが興趣一入(ひとしお)である。
    心太(ところてん)
    莫大小(めりやす)
    ...
等は初めて目にして感銘を受けた記憶がある。後年、同級生名簿中に発見したときは絶句したが。
 抑(そもそも)、煙草に縁のある難読例が見当たらないのが不満である。ユーザーの性向に合った検索結果を表示する機能が備わっているならば、
    鼻煙壺(びえんこ)
    硯滴(けんてき)

あたりが挙がっていて欲しいものである。前者は、嗅煙草が中国に伝わって、清朝の貴顕が煙草粉を入れるのに用いた贅を尽くした容器である。瓦笥(かわらけ)のキセル片を集めて悦に入る向きもあるようだが、このほうが余程優雅な収集対象と言えよう。後者は、往時硯箱を取り出して一筆認(したた)めようという時に、水を二、三滴、硯に垂らすための容器である。昨今の文房具店では通じないだろうが、書道用具を扱う店なら分かるかも知れない。自分は神社の境内などで開かれるボロ市の店頭で入手した。若い店主も何物か判然としないようで格安だった。開口面積が小さいので、水を入れて煙草入れに入れておくと適度な湿気を保ってくれて至極都合が良いし、水がこぼれることもない。

煙草入れに設置された加湿装置としての硯滴

次なる機会には、同じ文房具ついでに円筒形でタンパーに使える古墨片を探してみようと思う。


筆者注: 嗅ぎたばこ入れと鼻煙壺の特別展が5月6日まで渋谷のたばこと塩の博物館にて開催中です。
http://www.jti.co.jp/Culture/museum/exhibition/2011/1203mar/02/index.html