パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』第5回 机の上で眺めるお宝タンパー

私が岡山パイプクラブのドン、平野憲一郎氏に誘われ、パイプをたしなみ始めたことは最初に書いた。日本パイプスモーカーズクラブ入会以来、月一回の例会に、必ずしも熱心に出席しているわけではないが、会員の先輩方の懐の深さには毎回、教えられることが多い。

喫煙器具については、外川広洋氏のアドバイスが的を射ていて感心する。この人の眼力がすごくて、その人にあったパイプ、葉の嗜好を瞬時に見抜く。

私が愛用しているのはダンヒルのパイプ、これは全部、クラブのオークションで入手したものだが、外川氏が私に「小枝さん、あんたがダンヒル使うには10年早いけど、まあ吸ってごらん。とても吸いやすいから」というアドバイスがあったからだ。

なぜか。まず煙も息もスッと通る。これが初心者には助かる。私は小柄で、ごついパイプは似合わないが、彼は私の身長、体重に合った大きさのダンヒルを勧めるので、それに従って使用しているが、実に持ちやすい。

こっそり吸いながら、その姿を鏡に映して眺めると、「なかなかサマになっているではないか」と勝手に思い込む自分が怖い。

ついでに、私は表面がツヤツヤしたものより、ゴツゴツしたツヤ消し模様が好みだが、それも外川氏はわかっていた。短い会話の中から、そういう私の好みもわかるからだろう。

オークションの会話では「こりゃ、形は小枝さん好みだけど、光っているから、○○さん、あんただね」なんて、リードしていく様は、だれでも出来る芸当じゃない。

個性の塊のようなクラブで、潤滑油的存在の外川氏だが、彼は結構、気前よく喫煙器具を人にあげちゃう。

「たくさん持っていても、やっぱり普段使うものは限られるんだよ。小枝さんだって、ダンヒル3本っきゃもってないけど、いつも吸っているのは、その一本だろ。もし、誰かが気に入って使ってもらえるなら、あげたらいいじゃない」。

なるほどなあ。そりゃ、そうだけど、ずいぶん思い切りがいいのは江戸っ子気質だからかしらん。

先日、彼と二人でプカプカやっていたときのことである。私はタンパーを持っていなかった。「あちち」と指で押し込もうとしたら、実に軽くて使いやすいタンパーを貸してくれた。

それまで私が使っていたのは500円で売っているメタル製のものだから、彼のものとは物が違うのは当然だ。

「ダンヒルだよ。もう20年くらい前のもので、売ってないよ」と言われて気がついた。タンパーのヘッドにおなじみの白いマークが入っているではないか。

「ほう、初めて見ました。ダンヒルですかあ。さすがですねえ」と何度も借りて使っていたら、やにわに外川氏「よかったら、使ってよ」と私にプレゼントしてくれた。

相応の価格で譲り受けるならいざしらず、素人からすれば貴重品の類のものをいただくというのも気が引ける。

そんな私の気持ちなどとっくに見透かしたように「小枝さん、自分が気に入ってるものだから、人様にあげるんだよ。いらないものなんかあげたら、失礼だよ。あんたが大事に使ってくれりゃ、それでいい」。

ありがたい話だが、タンパーの長さは10センチもない。こんな小さなもの、そのうち絶対に失くしそう。なくしたら、どうしよう。と正直に心配事を口にした。

「持ち歩いて失くしたら、後悔でいっぱいになるよなあ。僕はあげたほうだから、気にはならないけど、もらった方はずっと気が滅入るね」

避ける方法はたったひとつ。「持ち歩かず、家で使うこと」と教えてくれた。

そうか。携帯するのは、どんなタンパーだってかまやしないんだから。「お宝は持ち歩かず、家で使う」か。

結局、ブライアーでできているダンヒルのタンパーは私の机の引き出しの中に鎮座している。きれいな形だから、実際に使うよりも、ときどき取り出して、触ったり、うっとり眺めているほうが多い。

それにしても、パイプを吸うようになってから知らぬ間に、先輩たちからは、ずいぶん人間としての生き様も教えてもらっている。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人