パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』第4回
パイプの煙 チャンスは前髪だけ!マグレでも記録は記録

50を過ぎて初めて煙を吸った人間の悪戦苦闘ぶりを書き綴るのが、このコーナーだが、先日、東京パイプ・スモーカーズ・クラブ、8月例会のコンテストで予想外の自己新記録を出してしまい、自分でもびっくりしている。

初回1分48秒だった私のスモーキングタイムのことは以前書いた。以後、これまでもせいぜい15分程度だった。

もちろん、長く吸い続けられるようコントロールできる器用さもない。

加えて恩師は、あの岡山パイプクラブのドン、超パワースモーカー・平野憲一郎氏とあって、とにかく煙を吹かしまくるのが私のスモーキング・スタイルである。

8月28日、この日はいつもと違い、なぜかいちばん奥のテーブルに座った。座る位置が違うと見える風景も違えば、気分も違ったのかしらん。

使用パイプはダンヒルのビリヤード型。よーく掃除もしておいた。素人の私でも実に吸いやすい逸品だと実感する。

そんなことをぼんやり考えていたら、「小枝さん、始めますよ」と外川さんに促がされて、われに返る。本日の葉、飛鳥(だったかなあ)をあわてて2グラム詰め込んだ。

一本目のマッチでボウルの内側にまんべんなく火がついた。

これだけで、「おお、今日はなかなかいい調子じゃあないか」と勝手に思い込む。

ゆっくり吸いながら、タンパでチョコチョコ押さえつつ、巡航速度に入ったのは初めての経験で、うれしくなる。

目標は20分をクリアすることである。だいたいその前で、厚い火の層で葉は燃え尽き、粉状になって噴出し、アウトというのが、これまでのパターンであるが、この日は、じわりじわり燃えていくのみ。

20分をクリアすると「ひょっとすると30分いけるかも」と、欲が出てきた。

記録でもなんでも巡り合わせというものがある。人には会える時に会っておかないと会えないし、記録も出せるときに出しておかないと、二度とチャンスがこないことは人生で何度も経験している。

ちょっと本気になってきた私の心中を見透かしたように、大村さんが「いやあ、30分超えたよー」と励ましてくれる。

「こりゃ、40分の壁もいけるんじゃないか」などとおだてられると、こっちも「めったにないチャンスだ」と顔つきも変わってくる。

女性カメラマンスモーカー小野田さんが「真剣な顔だから、記念に撮っておきましょう」とパチリ。

タイムキーパーの外川さんは「小枝さん、どうなっちゃったの。ギリシャの山火事みたいな大事件じゃない?」と茶化すから、こっちも返事をしようとしたら、隣の青羽さんが「ここまできたら、話さないで吸い続けたら」と、まことに的確なアドバイス。

パイプを上に向け、よだれも出てきたが、おしぼりで拭く。いやあ、きっと真剣な表情だったんだろうなあ。

40分を過ぎたら、「いやあ、すごい、すごい」と大村さん(結局、彼がいつものとおり優勝するのですが)がニコニコし始める。他人の心配するんだから、余裕充分です。

「はい、50分経過」の外川さんの声が信じられなかった。

さすがに葉も燃え尽きて、「終わりましたあ」と自己申告。

正式タイム(梶浦さんに確認してください)50分  いやあ、もう満足、満足でした。

オークション以外で満足感を味わうとは!

終わってから、葉を詰め替えて、吹かしまくったら、気持ちのいいことこの上ない。

この手の話はすぐ伝わる。博多の平野さんからメールが来た。「祝 快記録、すぐその話を書け」と。

ということで、今回、えらく自己中心で視野狭窄なお話になり申し訳ありません。

次回からは、また雑学形式に戻ります。

それにしても50分は、われながらすごかった。最近、毎晩吸ってます。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人