禁煙ファシズムにもの申す

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「派遣村」失業者たちの喫煙事情
 12月末から1月5日まで東京・日比谷公園に開設された、失業者支援イベント「年越し派遣村」。最終的には約500人の失業者やホームレスが支 援村を利用し、その場所が厚生労働省のすぐ前であったこともあってか、年末年始にかけてマスコミが盛んに報じました。それによって、さらに多くの失業者・ホームレスが殺到し、厚生労働省が開放した講堂にも人が入りきらなくなってきた時期です。

 日比谷公園は千代田区にあります。失業者たちに講堂を提供したのは、我々喫煙者を社会から排除しようと目論む(?)厚生労働省です。ここで気になるのは、派遣村では失業者たちの喫煙は守られていたのでしょうか。私は1月3日、取材のため現地に足を運びました。

 派遣村には、多くの人々から食料、衣類、携帯用カイロなどの支援物資が送られてきています。調理場の裏には、日本共産党の地方支部の名前で送られてきた米やリンゴなどが山積みにされていました。食料は調理され一日3回の食事として支給されますが、衣類や携帯用カイロはそのまま利用者の手に渡ります。では、タバコの支給はあるのかどうか、利用者に尋ねてみました。すると、こんな答え。

「タバコは、本部のテントに行けば1回につき2本、支給してもらえるよ。はじめは何回もらいに行ってもよかったみたいだけど、人(失業者・ホームレス)が増えちゃったから、支給する時間を決めて1日2回だか3回までにしたようだ」(Aさん)

 体調や命に直結する食料や衣類だけではなく、嗜好品であるタバコも支給しているとは、派遣村の配慮に感心させられます。しかし1回2本で1日2〜3回ということは、1人1日に最大でも6本まで。タバコを吸いながら談笑する失業者の一群から、こんな声が漏れ聞こえてきた。声の主は20代と思しき青年です。

「いやあ、タバコ貴重だからな。自分で1箱買ってたときはまだ長いうちに捨てちゃうこともあったけど、いまはギリギリまで吸い尽くしちゃうようになったよ」


 派遣村では、「もし火事が起こったら、その場で派遣村は解散しなければならない」と、テント内を完全禁煙にしていました。会場である日比谷公園は、もともと指定喫煙場所以外では禁煙です。しかし派遣村内には、複数の場所に大き目の空き缶が灰皿として置かれ、どうやら喫煙所が通常より増設されているようでした。食事に並ぶ人々の列のすぐ脇にもその灰皿があるため、タバコをくゆらせながら列に並ぶ人々もいます。あの悪法「路上喫煙禁止条例」で有名な 千代田区とは思えないおおらかさでした。喫煙場所に制限があるとは言え、喫煙者への思いやりに満ちています。

 記者自身も喫煙場所でタバコを吸いながら、そこにやってきた失業者たちに声をかけて取材をしました。タバコの話もしましたが、主目的はもちろん、どのようにして仕事を失ったのかや、いまの生活で困っていることなどを聞くことです。喫煙所で失業者たちに話しかけると、みなリラックスしていろいろなことを話してくれます。自らの失業の話やホームレス生活のこぼれ話など、こちらが予想していた以外のテーマでも語り合うことができました。タバコを吸い終わっても立ち話が続くので、こちらもカンパ代わりに自分のタバコを差し出して、「1本いかがっすか?」などとやりながら、長い人では30分近くも話し込みました。


「火を貸してもらえませんか?」

「どうぞどうぞ」

「(報道腕章をつけている私を見て)なんでこんなにマスコミが来てるの? 今日もラジオのニュースではトップで派遣村のことやってたよ。ほかにニュースないの?」

「いやあ、失業問題は深刻ですしねえ。しかも厚生労働省の前でやってるってんで、やっぱり注目ニュースなんじゃないですかねえ」

 こんな感じで、ごく自然に会話が始まります。タバコはかくも人と人とのコミュニケーションを助けてくれるのだということを、改めて実感しました。

 タバコの支給が1日4〜6本ということについては、失業者たちからあからさまな不満の声は聞かれませんでした。しかしこれでは十分とまでは言えなさそうです。派遣村は1月5日で解散し、派遣村では支援物資の受付をすでに終了しました。今回は間に合いませんでしたが、もしまたこうした事態が起こったときには、喫煙者の皆さん、タバコを支援物資として送ってみてはいかがでしょうか。もちろん、食料や衣類も添えて。
フリーライター 藤倉善郎
2009/01/14