禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシスト松沢成文(1)

神奈川県知事の松沢成文が、県内の飲食店などを罰則つきで全面禁煙にする条例案を出そうとしており、反対に逢っているという。

以前、田中康夫が長野県知事だった際は、県庁内を全面禁煙にして議会と対立していたし、大阪府知事になった橋下徹は、府庁職員に勤務中休憩時間も喫煙を禁じようとしていたようだ。知事というのは英語で言うとガヴァナーだが、どうも最近、このように独裁者気取りになる知事が多いようだ。

ただ、田中と橋下の場合は職員、つまり公務員を相手なのに対して、松沢の場合は一般国民を相手としているから、この条例が通れば、憲法違反になる可能性が高い。

私は小田急や京王がプラットフォームを禁煙にしているのに抵抗しているので、時おり吸っては駅員と言い合いをするが、その際駅員は必ずと言っていいほど、「健康増進法で決まっている」というような嘘を言う。健康増進法は分煙の配慮を罰則なしで定めているだけで、もちろん全面禁煙など定めてはいないが、駅員相手にそんな議論をしても分からないので、先日「JRには喫煙所があるではないか」と言ったら、さすがに言葉に詰まっていた。

もし国が、どこそこを全面禁煙にしなければ罰を与えるなどという法律を作ったら、欧米のことは知らず、少なくとも日本国憲法に照らして言えば違憲であり、もし松沢の条例が通り、禁煙にしない店に罰を与え、店が松沢を訴えたら、松沢が負ける可能性はさほど低くない(ただし近年の司法は行政寄りなので信用できないが)。

そういう意味で、松沢の条例が通り、もしこれを違憲とする判決が出た時に、初めて、禁煙ファシズムへの歯止めがかかる可能性があるわけで、実は少し期待している。むろん、松沢に抵抗して裁判まで持っていく気骨のある店主などがいなければ意味はないし、私は神奈川県内の店を買収してアクションを起こすほど金持ちではないのだが、まあその時は、私は神奈川県にはなるべく行かず、食事をとらなければならないようなことにはならないようにするまでだ。むろん、私が住む東京都でそのようなことがあったら、私は行政訴訟を起こす。

私にとって、いちいち抗議の電話をしたりしていたのは、JR東日本、東武、小田急などが新幹線や特急を全面禁煙にし、東京のタクシー組合が全部禁煙にした段階で終っている。松沢の思惑に反対したりすると、まるでそれ以前の禁煙ファシズムを認めているようになるので、積極的には言わない。いちいち反対することで、それ以前のことを認めたことになるといけないと思っている。だいたい、私は飛行機の全面禁煙すら認めてはいない。

さて、十月十日の毎日新聞朝刊に、松沢を含めて、三人の、この問題についての意見が掲載された。なぜ三人なのだろうか。賛成、反対、中立ということで紙面構成をしているのかもしれないが、この場合は二人が賛成だったから、自ずと新聞が松沢側であることが分かる。

「毎日新聞」は、禁煙ファシズムの後押しでは比較的ましな方だったが、最近はこれもひどくなってきて、先日の、大阪の個室ビデオ店の放火事件の続報で「喫煙後に放火」などと大きな見出しをつけていたが、そんなことは報道する必要性のないことで、単に喫煙者のイメージを悪化させたり、喫煙と火事を連想させようと仕向けているとしか思えない記事だった。もっとも「日経新聞」や「産経新聞」などもっとひどいようで、なるほど新聞にとっての重要な広告主であり、日本経済の牽引役である自動車の害を隠蔽するのに必死ですな、と思うだけである。

さて、その松沢の記事だが、もとよりこのような、自動車の跋扈を許している中でのものだから、単に嫌煙家を喜ばせるだけのものでしかなかったし、新聞は既にこの件で中立を保つつもりなどさらさらないのだから、論評するだけバカバカしいが、松沢は「受動喫煙」は「迷惑」ではなくて「危険」だと言う。もしそれが本当なら、自分で吸っている喫煙者にとっては、さらに途方もない害になるはずで(そのようなことは証明されていないのだが)、喫煙が合法であるのはおかしいだろう、と言えば済む。

もう一つ、日本は世界の潮流から遅れているという、禁煙運動家らのいつものたわ言もあったが、こういう、世界中がやっていることは正しいという、愚劣な思考はどうにかならないものか。世界の潮流などというものは、先進諸国、つまりキリスト教国が広めているものに過ぎない。

では松沢は、それらの国が帝国主義を押し進めていた時に、それに乗り遅れまいとした日本は正しかったと言うのであろうか。

松沢は、夜間外出禁止条例やテレビゲームの規制を言い出す、正真正銘のファシストなので、いよいよ「リベラル」の「毎日新聞」もファシストと化してきたかという観がある。

<続く>
小谷野敦:東京大学非常勤講師
比較文学者
学術博士(東大)
評論家
禁煙ファシズムと戦う会代表
2008/10/15