禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

健康増進法がもたらした「喫煙者差別」を懸念

毎年5月31日は「世界禁煙デー」とかで,各地で禁煙講習会や,役所のロビーなどで「喫煙の害」を強調したパネル展などが行われている。その中にはたばこを喫った人の肺が、ヤニで真っ黒になっている写真が,相も変わらず我が物顔に鎮座?している何時もの光景が見られる。

5月末のある新聞が,「世界禁煙デー」に呼応したかのように,神奈川県の「禁煙条例」化を取り上げ掲載していた。不特定多数の人が利用するホテルや飲食店での喫煙を全面禁止するというものだ。健康増進法では「受動喫煙」の防止も,努力規定に止まっているので,神奈川県は規制対象の施設において,条例に違反した場合は,施設管理者と喫煙した者に対しての罰則を設けることも検討していことを紹介し,他の地方自治体もこれに見習うべしとの主張をしていた。

7月13日の,ある民間放送TVの報道番組の中で,たばこ税を増税し,1箱1,000円とすることについて,出席者から賛否を問うていたが,松沢神奈川県知事が出席しており,賛成の札を挙げていた。松沢知事の賛成の理由は,端的に言えば「喫煙者が減るから」であった,そこで松沢知事の「禁煙条例」制定の本当のねらいは,受動喫煙防止に名を借りた「禁煙策」だったことに気が付いた。この番組をご覧の皆様は如何に感じたでしょうか?

勿論,JTの副社長も出席しており,「受動喫煙」については,たばこを喫わない人には「迷惑」を掛けないよう,喫煙者がマナーを守って喫煙することは当然の事としながら,その「害」については,現在明確な科学的根拠も確立されておらず,解明に努めている中で,受動喫煙の害が一人歩きすることは困ると反論していた。勿論1箱1,000円に値上げすることは,絶対認められないとの立場だった。

山形県天童市にある精密部品製造会社「エムテックスマツムラ」が,今年5月1日から,関連会社を含む全事業所を全面禁煙にしたとの報道があった。そのねらいに受動喫煙の防止を挙げているが,更に詳しく同社のホームページ中から全面禁煙に関する項目を見てみると次の通りだ。

  • 社員一人一人が健康で安心できる職場環境で働けるようにする目的に取り組むこと。
  • タバコを吸わないお客様と社員にとってタバコの臭いは気になるものです,お客様と社員の健康増進のために私たちはタバコを吸うべきではないと決断しました。
  • 健康増進法の施行により,企業内の職場では分煙が必要となりました,しかし分煙だけでは非喫煙者への受動喫煙を防ぐことが出来ません,不快感を取り除くことは出来ませんでしたので,終日禁煙とすることにしました。
  • 入社後安心して業務に従事して頂くため,定年まで活躍して頂くため,非喫煙者を採用させていただきます。また喫煙をされている方は採用まで止めていただきます。

 以上の項目の記述は,一見理に叶った様に見えるが,よく見ると「タバコの臭いは気になる」だから「お客様と社員の健康増進のために私たちはタバコを吸うべきではない」と言う論理は,どう考えても取って付けたような理屈で,到底「受動喫煙の害の防止」と言う狙いとは結びつかない論理だ。これも健康増進法の「悪乗り」と言わざるを得な

い。

文言の一つ一つにコメントしても,揚げ足取になってしまうので止めるが,それでも最後の項目の「新規採用者は非喫煙者に限定」するとの件(くだり)は,極めて重大な問題が含まれている。

つまり,採用の条件を「非喫煙者」とし,「喫煙者は採用まで止めること」と限定していることで,たばこが好きなだけで問答無用の門戸払いに会う。誰が見ても理不尽極まる「差別」ではないか。

2つの事例を紹介しながら述べてきたが,今回の主張のポイントは,神奈川県の禁煙条例の制定問題は,条例化された結果引き起こされる「喫煙者」の排除と「差別」の拡大が進み,非喫煙者との「共存」も否定し,互いに思いやる心を喪失させる社会的風潮の蔓延に繋がることを懸念する。

また,エムテックスマツムラの問題は,「分煙」すら許さない喫煙者の「排除」が「差別」を生み,「人格否定」にまで一気に短絡してしまうという重大な社会病理現象の典型的な症状例と言えるものだ。

「健康増進法」の名を借りて,喫煙という個人の純然たる趣味趣向を殊更問題視して,それで採用不採用を決める愚かな行為と,これらを無批判に許す社会現象にも警鐘を鳴らしたい。

吉田里志
2008/08/18