禁煙ファシズムにもの申す

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007  No Time To Die

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 これから映画館で観劇しようという方は、最初にネットでネタバレの筋書きを読んで予備知識を十分得てから行かれることを強くお勧めする。
派手なアクションシーンがてんこ盛りの予告編は、久々の新作007映画への期待感を膨れ上がらせた。
肝心の本編はあれこれ詰め込みすぎ。豪華絢爛だが、観ていて疲れる作品になってしまった。制作段階で脚本をこねくり回したようで、筋書きが複雑になりすぎて、上映時間3時間近い長尺ものになってしまった。
歴代のボンド映画の中でも出来が良い方と言えるかどうか微妙だろう。

永年の007映画のファンからの苦言をいくつか。

@ 007ジェームズ・ボンドシリーズは、プレーボーイの英国諜報部員が悪者と戦う痛快冒険活劇というのが、お約束の筋書きの筈だ。そのボンドが恋人に溺れて、子供まで出てくる御涙頂戴ものになってしまった。これは約束違反。プレーボーイ失格だろう。元々荒唐無稽な大人の御伽話なのだから、高温多湿の家族愛めいたものをくどくど描く必要は無い。

A ダニエル・クレイグが主役になってから、上司のMが口うるさい老婆になって、ボンドが上司との確執に悩むようになった。前作か前々作あたりからMの秘書でボンドに仄かな恋心を持つマネーペニー役に黒人女優が起用された。今回のNo Time To Dieでは筋肉ムキムキの黒人女優がボンドの後任の007で登場した。ご婦人尊重、人種配慮ということだろうが、アメリカ風の時流に阿る下心がいかにも見え見え。不自然な配役は無理筋で映画全体の興趣を削ぐ。

B これはダニエル・クレイグ起用の時からの不満だが、嘗ての007ジェームズ・ボンド作品には、英国流の大人のユーモアセンスがあった。ボンド役のショーン・コネリー、ロジャー・ムーアが醸し出すどことない可笑しさが殺しのライセンスを持つ男の非情さを和らげていた。クレイグがボンド役になってから、ひたすら真面目真剣一点張りで、ユーモアセンスが消えてしまって、ただの豪華アクション映画に堕落してしまった。ド派手なアクションはトム・クルーズやジェイソン・ステイサムあたりに任せておけば良い。

脚本と監督が米国の日系人4世のキャリー・フクナガ。映画冒頭の能面を被った殺人者の不気味なシーンは息を呑む迫力だ。この人は個々の場面のアイデアや迫真描写は秀逸だが、総合してまとめあげるための修業が足りない。要するに頭デッカチ監督。
ボンドの恋人役はフランス人女優のレア・セドゥー。知性派らしいが、見かけはそこらにいるおばさんですという感じ。色気と可愛さが不足。新任のMも、どこにでもいるただの偉ぶった爺さん。
米国C I Aの新米スパイの美女がどうやら今回のボンドガールらしいが、いかにも端役扱いでかわいそう。
新兵器開発係のQは、前作では若者だったのに、今回作品では急に老けこんで、中年男になってしまった。時の流れるのは早いものだ。

この作品で煙草が登場するのは、ボンドの盟友フィーリクス・ライターが、ボンドの隠れ家を訪ねてきたぞという合図に、喫い残しの葉巻を灰皿に置いておいた場面。太い葉巻だったので、パルタガスのロブストかコイーバのマドゥーロじゃないかと思ったが、一瞬の場面で銘柄まで分からなかった。葉巻に詳しい方にご教示願いたい。
それにしても、007映画シリーズでボンドが煙草を嗜まなくなって久しい。日々、危険と隣り合わせで太く短く生きるスパイが、ケチな健康オタクである筈がない。



ボンドも安っぽい男に堕落したものだ。

2021.10.18