禁煙ファシズムにもの申す

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映画 クーリエ:最高機密の運び屋

Q

 実話ものスパイ映画の久々の傑作。
米国とソ連が全面核戦争の瀬戸際に立った1962年のキューバ危機。その渦中の米英対ソ連の苛烈な諜報戦の中で、英国秘密情報機関MI6にスカウトされた素人スパイのグレヴィール・ウィン(Greville Wynne)を主人公に描いた作品である。

公式サイト:https://www.courier-movie.jp

ウィンは東欧諸国に仕事でよく出張する英国の機械メーカーのセールスエンジニア。どこにでもいるような平凡な男だ。そのウィンにMI6と米国中央情報局CIAから情報の運び屋(クーリエ)になって欲しいという依頼が突然舞い込む。ソ連軍参謀本部情報総局(GRU=ゲー・エル・ウー)のオレグ・ペンコフスキー(Олег Пеньковский)大佐とモスクワで接触し、軍事機密情報の運び屋になって欲しいという依頼だ。

渋々引き受けたウィンだったが、ソ連共産党の非道な抑圧体制に憤り、米ソの核戦争を回避するべく自ら祖国を裏切って米英に協力を申し出たペンコフスキー大佐の人間性に惚れ込んでいく。

在モスクワ米国大使館にあった「金魚鉢」と呼ばれた異様な盗聴防止部屋や、英国大使館でのウィンとCIAの女幹部との筆談、宿泊ホテル内でラジオを大音量にして耳元に口をつけて会話するウインとペンコフスキー大佐の姿など、ソ連国家保安委員会(KGB=カー・ゲー・ヴェー)の盗聴監視の凄まじさを描く。

中でも、「煙草」が当時のスパイ活動の中で重要な小道具の役割を果たしていたことをきちんと描いていた。ペンコフスキー大佐が、モスクワ旅行中の米国人の若者に最初に接触したのは煙草の火を借りるという何でもない所作から。内通が発覚してK G Bに逮捕される寸前のペンコフスキー大佐を、C I Aが家族ごとソ連から脱出させるため、逃走方法を記した指図メモを煙草の箱に隠して、ウィンがペンコフスキーの上着のポケットに押し込んで渡す場面。

ウィンを演じたのは英国の名優ベネディクト・カンバーバッチ。制作総指揮を執ったというだけあって役作りに感嘆した。ペンコフスキー大佐役のジョージア出身のメラーブ・ニニッゼも露見すれば処刑されるという凄まじい重圧の中で、自らの信念に殉じる男の姿を演じきっていた。監督は演劇から映画監督に転じたドミニク・クック。脇役も一流ぞろいだ。歌手やお笑い芸人上がりが俳優の真似をして、才能乏しき映画監督がお手軽な映画もどきを作る昨今のどこかの国の状況とは大違いである。実に情けない。

<「煙草」の場面が含まれます>

【緊迫の冒頭250秒】映画『クーリエ:最高機密の運び屋』本編映像

https://www.youtube.com/watch?v=hFzS7qv4yJg

【白鳥の湖】映画『クーリエ:最高機密の運び屋』本編映像

https://www.youtube.com/watch?v=Jz8KgxGAZno


ここからは私個人としての深い感想。

米ソ全面核戦争瀬戸際のキューバ危機があった昭和37年当時、私は小学生だった。両親がソ連の水爆ミサイル攻撃の恐怖に怯えて、田舎の父の生家に一家でしばらく疎開しようかと話し合っていた。母の大叔父家族が米国の長崎への原爆攻撃で全滅していた。私も子供心に怯えていた。

第二次世界大戦後、幸いにも核戦争は起きていない。だが核兵器の拡散は止まらない。貧弱な小国まで核兵器を持つ時代になった。核戦争への敷居は確実に低くなっている。今年7月には、中国共産党系の軍事研究集団が、台湾有事に日本が介入すれば、日本の諸都市を核ミサイルで連続攻撃するという恫喝動画を制作して一般公開したばかりだ。何かに憚ってか日本のマスコミは殆ど報道しなかったが、彼らの本心が漏れ出たと見て良い。

「核兵器は使えない兵器だ」と能天気なマスコミは言うが、現実は甘くない。中国人民解放軍に第二のペンコフスキー大佐はいないだろう。
「核兵器廃絶」の空念仏を唱えても無意味だ。
真剣に深く軍事的な対策を考えなければならないと思った。

2021.09.27