禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

露 墺空港等、喫煙事情
愛煙幸兵衛2番弟子

愛煙幸兵衛先生から「日本は暑くてたまらん。ロンドンオリンピックのテレビ観戦も十分堪能したから、オーストリア湖水地方に避暑を兼ねてしばらく遊びに行く。君、暇だろう? 一緒に付いてきたまえ」と突然、電話があった。本当はそんなに暇ではなかったのだが、結局、先生の鞄持ちということで、避暑旅行に2週間あまり随行した。

久々の成田国際空港だったが、一般客用喫煙室が随分良くなっていた。JT提供だそうだが、寛げる椅子もちゃんとある。日本国内の地方空港の喫煙室の貧弱さとは比較にならない。

愛煙先生と喫煙室で思う存分パイプや葉巻を吹かしていたら、これから乗るアエロフロートの機長と副操縦士が入ってきて、紙巻を一服している。見るとお土産か自分用か知らないが、日本の紙巻たばこを袋一杯持っていた。愛煙先生がロシヤ語で「我々はこれから貴君が操縦する予定の飛行機の乗客である。貴君の操縦を信頼している。たっぷりと日本のたばこを喫って準備してくれたまえ」とか何とか声を掛けて挨拶したら、機長は「おお、任せとけ」とかなんとか言ってにっこり笑った。

愛煙先生がモスクワの古い友人と久闊を叙すということで、モスクワで降りて一泊。ロシヤは相変わらずの愛煙家天国で紙巻スモーカーがどこでも盛大に煙を吐き出している。愛煙先生のロシヤ人の友人によると、健康がどうの、マナーがどうのなど、阿呆の分際で詰まらぬことばかりをごちゃごちゃ言う嫌煙運動は、ロシアには存在しないそうだ。

翌日夜、モスクワ・・シェレメチェボ第二空港からウィーンへ。愛煙先生によると、共産党時代はシェレメチェボ第二空港に降り立つと暗鬱な監獄そのものみたいな雰囲気で気が滅入ったそうだが、今は近代的な普通の空港になっている。

愛煙家天国のモスクワとはいえ、国際空港の建物内は禁煙だった。これは、まあやむを得まい。しかし嬉しいことに空港内の至る所に広々とした喫煙室がある。看板を見ると、たばこ会社ウィンストンの提供だ。搭乗までの待ち時間、シェレメチェボ空港でタックスフリーで購入したアルマニャックをちびちび舐めながら、パイプを吹かす。先生は珍しく葉巻でご機嫌だ。

「昔は、アエロフロートは世界でもっとも無愛想で官僚的な航空会社、シェレメチェボ空港は世界最悪の国際空港といわれたものだよ。様変わりだな。やはり自由は良いな」としばし懐旧談。

 離陸した際に、丁度、圧巻ともいうべき素晴らしい地平線の夕焼けが窓から見えた。記念に窓から写真を撮ろうとしたら、「ニェット(駄目)!」とスチュワーデスに厳しく制止された。スチュワーデスの赤色の制服はソ連共産党時代のままで、帽子の徽章は鎌と槌。愛煙先生は「何でもニェットだった、共産党時代を彷彿とさせるな」とご感想。

3時間程度の僅かな時間でウィーンのシュヴェヒャート国際空港着。深夜着の便だったので、ホテルに直行した。

ホテルはウィーン中心部の四つ星ホテル。昔の貴族の館を改装したエレガントなホテルだ。玄関に見るだにおぞましい「禁煙」のマークが記してある。私が手配して予約したわけではないが、瞬間湯沸かし器の異名もある愛煙先生が激怒して直ちにホテルを変えようと言い出したりすると、深夜だし面倒だなとちょっとばかり危惧したが、お疲れ気味の先生はさっさと御自分の部屋へ。

翌朝、「コンコン」と窓を叩く音が聞こえるので、目が覚めた。愛煙先生が中庭に面した私の部屋の窓を叩いておられたのだ。「おはようございます」と挨拶して窓を開けると、うまそうにパイプを喫っておられる。空は澄み切るような快晴。どんよりした空が多いウィーンでは珍しい。

見ると中庭に面したベランダの柵には至る所に灰皿が結わえ付けてあった。要するに屋内は禁煙が建前だが、それ以外は自由に喫煙できるというわけだ。喫煙者用の安楽椅子までベランダに置いてある。

先生曰く「オーストリア人は人生を楽しむ大人だから、どこかの極東の国の視野狭窄の嫌煙馬鹿どものように、敷地内禁煙などと理不尽で愚劣なことを言う阿呆はいないんだよ」

先生にお供しながらケルントナー大通りを早朝散策。ウィーン市街は喫煙自由でパイプを吹かしながらの早朝散歩は気持ちが良かった。しばらくするうちにカフェが開店してきた。ウィーンに来たのだからと、ウィンナコーヒー、ザッハトルテを楽しんだ。カフェも当然、屋外は喫煙自由だ。ウィンナコーヒーには、ラタキア、オリエントでブレンドした現地購入のパイプ葉が似合って美味しいことを後日、発見した。

ウィーンに2泊して鉄路でザルツブルク。さらに足を伸ばしてザルツカンマーグートの湖畔のホテルで長逗留。と言ってもやっぱり貧乏性の日本人とあって悲しいことにわずか10泊。世界中から本物の富豪が大勢、避暑に詰め掛けている保養地で、落ち着いて素晴らしいの一言だ。愛煙先生のドイツ語は戦前仕込みとあって古風だが、達者なベルリン訛り、保養地では至る所で新たな友人ができ、思わぬ歓待を受けて楽しかった。

ホテルもカフェも室内は原則禁煙だが、屋外はカフェでもどこでも喫煙自由。最終日にザルツブルクに戻ってホテルのロビーに隣接したベランダで、深夜、そよ風に当たりながら、葉巻を先生と一緒に楽しんでいたら、愛煙家の支配人が「他にお客様もいませんから、どうぞ室内ロビーで喫ってください」と招いてくれた。

最後にいささか残念だったのが帰途のシュヴェヒャート国際空港。小さな空港だからやむをえない事情もあるが、喫煙所が貧弱すぎる。鳥小屋のような狭い部屋に押し込められては、喫煙は楽しめない。観光立国にふさわしくない。空港当局の猛省を求めたい。

しぶしぶ随行した旅行だったが、お蔭様で暑い日本を避けて命の洗濯が出来た。愛煙先生に感謝。

2012.09.06