紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
喫煙の効用(その1)―喫煙者はパーキンソン病のリスクが低いー

喫煙の効用とりわけ科学的な効用については、喫煙による二相性の作用(気分が昂揚している時の沈静作用と気分が沈んでいる時の興奮作用)、注意力の向上、作業遂行能力の向上、ストレス解消作用等について、学術論文で報告されたものが多いので、喫煙の効用「その3」において御紹介する予定ですが、今回は、喫煙者はパーキンソン病のリスクが低いとの最新報告を中心に述べたいと思います(パイプ喫煙者への朗報も含まれています)。

「パーキンソン病」は、筋肉の固縮や振戦(震え)を特徴とする神経性疾患で、原因は、いろいろ取沙汰されていますが、はっきりしておらず、的確な治療薬も見つかっていない難病です。

従来から、喫煙者はパーキンソン病になりにくいことが言われていましたが、2007年7月号の”Archives of Neurology”(990-997, 2007)において、カリフォルニア大学ロス・アンジェルス校公衆衛生学部のBeate Ritz博士らの研究により、「最近の研究でも、特に喫煙歴の長いシガレット喫煙者においてパーキンソン病のリスクが13―32%低いこと、また、シガレット以外のたばこ製品ではパイプや葉巻の喫煙者の男性においてパーキンソン病のリスクが54%低いこと」が示されました。

Ritz博士らは、1960年から2004年までに行われた11の研究から、11,809名(パーキンソン病に罹患した者2,816名、パーキンソン病に罹患していない同姓、同年齢の対照者8,993名)のデータを分析しました。その結果、喫煙とパーキンソン病の負の関係(喫煙者の方がパーキンソン病のリスクが低いこと)を報告した従来の研究とほぼ同様の結果が確認されたということです。この関連性は、性や教育程度による差異は認められませんでした。

これらの結果のメカニズムとしては、パーキンソン病患者では脳内のドパミン遊離が少ないとされており、ニコチン等の煙中成分が保護効果をもたらしてドパミン作動性ニューロンの存続を促進する結果、ドパミンを遊離するという生化学的プロセスが存在することによってパーキンソン病を防止するという可能性が示唆されています。

ちなみに、従来の研究でも、ほぼ一貫して、喫煙者におけるパーキンソン病の相対危険度の低下(32−77%の低下)が示されていました。

以上のような研究結果は、疫学的調査に基づくものですので、疫学の限界を承知した上で、理解していただければと思います。

なお、アルツハイマー病においても類似した研究結果(喫煙とアルツハイマー病の負の関係)が報告されていますので、次回に解説する予定です。

川原遊酔(かわはらゆうすい)