パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

続 偽ダンヒルパイプにご用心 その10 東京パイプショー2025

日本パイプクラブ連盟副会長 岡山パイプクラブ会長 香山雅美

 

前にヨーン・ミッケ氏のパイプではラタキア葉は美味しくないと、私個人のありのままの経験談を綴った。これについて少し補足しておきたい。

 

先日、日本でトップクラスの煙草蒐集家である伊豆の大魔神こと芹澤弘光氏からお電話を頂戴した。芹澤さんによると、ミッケ氏はシガレット(紙巻き煙草)ではトルコ葉がお好みで、パイプ煙草はバージニア葉を喫っていらしたそうだ。

 

となると、ミッケ氏はご自分が好きなバージニア葉が美味しく喫えるパイプを自ら制作することで十分満足していたのだろう。だからボウルの内径をどれも2.5mmにした。ラタキア葉など念頭になかったし、どの種類の煙草葉でも美味しく味わえる汎用パイプを作ろうとも端から考えていなかったわけだ。

 

つい調子に乗って、ないものねだりをして、言わずもがなのことを書いてしまった。浅慮の至りだ。泉下のミッケ氏にお詫びする。

 

7月6日(日)に東京・東銀座のサロン・ド・ジュリエで開催した東京パイプショー2025に私も岡山から新幹線で馳せ参じた。パイプ愛好家が大勢集まり、大盛況だった。 多くの友人知人、パイプ仲間に会えて楽しい時間が持てた。

 

 

主催して下さった実行委員会のピエールさん、上田さん他のスタッフの皆様、誠にお疲れ様でした。また来年の開催を期待しております。

 

さて、パイプショー会場で久闊を叙した名古屋のパイプ作家小坂さんから良い知識を頂戴した。

かつてのダンヒルパイプの煙道には、ボウル側の火皿や煙道にジュースやヤニが流れ込まないようにアルミ製のインナーチューブが入っていた。インナーチューブを付けたままだと、バージニア葉やヨーロッパタイプの葉が美味しく味わえる。取り外せばラタキア葉が美味しくなるという体験談だ。ダンヒルパイプがボウルの煙道の内径を3.5mmにしたのはこのインナーチューブを入れる為だったとのことだった。

 

なるほどそうだったのかと初めて合点が入った。実は、ラタキア葉が好きな私は、このインナーチューブは最初から使わず、捨てていた。だからインナーチューブのことはまるで念頭になかった。ダンヒル社がこのことを最初から意図したかどうかは定かではないが、このこともダンヒルが世界の幅広いパイプ党に愛された一因ではないかと思う。

私の知識不足を補ってくださった小坂さん。

本当にありがとう。

 

 

日本パイプクラブ連盟のHPにこの拙い連載を始めたのをきっかけに、パイプの世界で私はいつの間にかダンヒルパイプの真贋鑑定の権威みたいに祭り上げられてしまった。そういう訳で、今回も多くの方に「ダンヒルパイプ」の真贋鑑定を依頼された。

 

おそらく香山が岡山からはるばる東京パイプショー2025に来るだろうと予見して、蒐集した「ダンヒルパイプ」をわざわざご持参下さったのだ。ありがたいことではある。顔見知りの方も知らない方も無論、無償で鑑定した。交通費と入場料1,000円を払ってパイプショーにわざわざ足を運ばれる方は、パイプ喫煙をこよなく愛しておられる方々ばかりだからだ。

 

結果は、やはり、ヤ〇オクやフリマなどで購入なさったと言う「ダンヒルパイプ」には偽物が多かった。見た瞬間に分かる明らかな偽物が大半だったが、巧妙な偽物が何点かあった。恐らくC国製かと思う。これらの巧妙な偽ダンヒルパイプについては、じっくり拝見させて頂いた。後学のためである。

 

C国の偽ダンヒル製作者は簡単に偽物と見破られないように彼らなりに努力している。偽物作りの技巧水準が上がっているのだ。昔ながらの真贋鑑定方法だけでは、彼らの詐術をそう簡単には見破れなくなりつつある。偽物製作者の「改善点」とクセなどを覚えておいて、私自身の鑑定眼をさらに磨く必要があるのだ。

 

とはいえ、ちょっぴり苦言も呈したい。昔から「安物買いの銭失い」と言うではないか。本物のダンヒルパイプを入手したければ、値段は高いが、菊水さんやKagayaさんなどの正規店や、信頼できる店で購入して欲しい。偽のダンヒルパイプをたくさん掴まされてしまって、パイプ喫煙愛好家を気取っても仕方なかろうと思う。

 

閑話休題。今回の東京パイプショー2025では、出店したKagayaさんが凄い大盤振る舞いをして下さった。今回のパイプショーの超特大の大目玉だ。1,000円分買うと、なんと古いパイプ煙草缶を1個オマケでサービスして下さったのだ。売れ残っていたイヤーコレクション缶や、缶の内部が熟成し過ぎて発酵したのかパンパンに膨らんで売り物にならないもの、日本で人気のない煙草缶などの一斉在庫処分だ。プラスチックコンテナ箱で4ケースも持参して下さっていた。

 

パイプ煙草を購入すると、美味しく味わうために最低でも5年熟成させている私にとっては実に嬉しい神対応だった。私は有頂天になった。まず挨拶代わりに、モールと海外でのワールドカップでの交換用にKagayaさんの宣伝バッジを6,000円分購入した。そして100g缶を6缶オマケで頂いた。

 

すると私の中から「もっとオマケが欲しい」という強烈な衝動がムクムクと湧き出してきた。齢、古希を越えたジジイのくせに、子供みたいで恥ずかしいが、嘘偽りないところだ。稚気、笑いたくば、笑ってくだされ。

 

並べてあったユーズドのパイプを眺めた。ダンヒルパイプの2本組ケース入りが瞬時に目に飛び込んできた。Kagayaさん曰く、「当店は中古パイプの買い取りをしておりますので、先日買い取ったものを手入れして持って来ました」とのこと。

 

私が、欲しいけど、ちょっとお値段が‥‥と逡巡していたら、すかさず悪魔の囁き「クレジットカードが使えますよ」。

悪魔にあっさり負けて、カードで即購入した。

 

1,000円毎に1缶オマケなら、その場にあったオマケのパイプ煙草缶を全部貰える筈だが、そこは分別を少し取り戻して大人の対応をした。Kagayaさんに「パイプショーが終わった時に、もしオマケが残っていたら、それを全て頂けませんか」。Kagayaさんは笑って諒解して下さった。

結果、オマケで頂いた煙草缶を親しい友人に少々お裾分けして、岡山に残った全部を持ち帰った。自宅で計ったら重量4.8キログラムもあった。嬉しかった。たまには衝動買いも悪くない。

 

 

パイプショーでは、個性派の面白いお方にしばしば出逢う。

初心者らしき若い方からパイプの美味しい喫い方をご教示願いたいと所望された。
私が「ボウルに煙草葉をいっぱい詰めて、45分から60分位で喫うと美味しく味わえます。もし火が消えたら上部にある灰をタンパーで軽く押さえて再着火すれば良いです」と気軽にコツを披露した。

 

するとわざわざ横から「それは違うな。ロングスモーキングの方法が一番良いんだ。100分以上かけてゆっくり喫うのが良い。途中で消えたら煙草葉を掻き出して、改めて煙草を詰めて喫いなさい」と口を挟んで来た年配の紳士がいらした。しかも言い方が自信たっぷり。何か権威みたいなものも感じさせた。その紳士、続けて曰く「こう見えてワシは全日本大会で3位になった人から喫い方を教えて貰ったことがあるんだ」。

 

私が「ロングスモーキングでは美味しく煙草は味わえませんよ」と反論すると、その方はムッとした表情をなさった。そこで私はつい「私は全日本選手権大会で2回優勝しています。現役では日本で歴代2位の記録を持っています。20年ほど前から世界選手権大会、ワールドカップ、ヨーロッパ選手権などに殆ど毎年参加して、個人4位を最高に10位以内に何度かなっております」と年甲斐もなく、言ってしまった。

 

こんなことを他人に自慢しても全く意味がないし、つい口に出してしまった自分自身が恥ずかしい。とはいえ、つまらない権威付けをして間違ったことを得々と若い方に教える御仁にはちょっと釘を刺しておいた方が良い。

 

日本パイプクラブ連盟のこのHPには、パイプ喫煙全般について尊敬する諸先輩方の貴重な知見や体験談を記した記事がたくさん載っている。誰でもパイプに対する本物の知識を無料で深めることができる。色々とパイプ喫煙について知りたい方は、このHPをまずゆっくり読んで頂きたい。変な自慢をして自己流の偏ったパイプ流儀を吹聴するお方の言を、真に受けないで頂きたいと切に願う次第。

 

もう一人、今回のパイプショーで出逢った面白い方を披露する。
カヤマさん、連盟のHPで貴方の記事を読みました。ミッケ様のパイプでは煙草が美味しくないと書かれていましたので、今日、ミッケ様のパイプを持って来ました。」とミッケ氏のパイプを見せて下さった。一体何をおっしゃりたいのか意味不明だが、とりあえず拝見すると本物のミッケ氏のパイプで未使用品だった。

 

私が「私も持っていましたから分かりますが、ゼブラマークの刻印が1個ありますね。これはさぞ高かったでしょうね。軽く100万円以上したでしょう」と褒めると、その方は嬉しそうに顔を綻ばせた

 

私は「ミッケのパイプはバージニア葉の煙草が美味しく吸えます。パイプは煙草を喫う道具です。是非試して喫ってみて下さい」と勧めてみた。するとその方は「ミッケ様のパイプを喫うなど、畏れ多いことです」とのこと。

 

パイプの楽しみ方は各人各様。私のような実用派もいれば、超高級品の作家ものパイプを蒐集し、火を入れずに観賞するだけで満足なさる方もおられる。それはそれで大いに結構。ケチをつけるつもりは毛頭ない。皆様、どなたもパイプの仲間。大切にしたい。絶滅危惧種と言われるパイプ党の狭い世界だが、色々なお方がおられて面白い。

 

HPの私の拙い連載記事をいつも読んで頂き、ありがとうございます。
読者の多くの方が、私を「カヤマさん」と呼んで下さいます。いちいち訂正するのも面倒ですから、これからはペンネーム「カヤマ マサミ」と名乗ります。

終わり