パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

偽物ダンヒルパイプにご用心  ―その5―

日本パイプクラブ連盟副会長 岡山パイプクラブ会長 香山 雅美

 

まず私の拙文を読んで頂いているパイプ愛煙家の皆様方に深くお詫びする。

 

過日、家のパイプコレクション等々を整理していたら、1993年にダンヒルの営業部長氏からダンヒルパイプ真贋判定の秘訣をご教示頂いた時の古いメモ帳がひょっこり出てきた。往時のことを懐かしく思い起こしながら、じっくり読み返しているうちに愕然とした!!
私の記憶と食い違っていて、記憶の一部が間違っていたからだ。
誠に申し訳ないことに、読者の方々にイヤーコードを間違ってお伝えしてしまっていた。

 

正しくは下記の通り。
 1955~1960年製造 5~0  アンダーバー有り
 1961~1970年製造 1~0  アンダーバー無し
 1970~1980年製造 11~20 アンダーバー有り、一部にアンダーが点々の物も有り
 1981~1993年製造 21~33 アンダーバー有り

 

1954年以前の製造パイプはパテントナンバーが刻印されており、イヤーコードをご教示頂いたが、複雑なので公表は控える。ここまでが営業部長氏からご教示頂いた内容だ。

 

1994~1999年製造 34~39 アンダーバー有り
 ここまでは数字の下のアンダーバーまでの高さがMADE IN ENGLANDと同じ高さ
 2000年以後製造 00からはじまりアンダーバーは無い

 

以上、謹んでお詫びとともに訂正する。

 

これ以外にもダンヒルパイプの真贋を見抜く方法はいくつもある。先日、東京大パイプショーなどで急遽依頼されて、計百数十本の「ダンヒルパイプ」を真贋判定したが、その場で判定した結果は全て間違っていないと思う。
真贋判別方法を詳しく公表すると、内外の偽物製造業者がそれらを参考にして、本物そっくりの精巧な偽物が世の中に多数出回ることになるので敢えて控えたい。

 

ダンヒルパイプの真贋判定方法を詳しく知りたい方は、全国各地にあるパイプクラブにまず入会申請し、入会を認められたら真面目に活動してクラブ内で一定の人物信用を得て後、日本パイプクラブ連盟事務局に電子メールでお問合せ頂きたい。

近くにパイプクラブが無い方もおられるだろう。その場合は、パイプ仲間を数人見つけてパイプクラブを自ら結成して、連盟に正式に加盟申請されたい。連盟が活動状況などを審査して、特に問題なければ、首尾よく加盟が認められるだろう。毎年開催の連盟総会、日本選手権大会、地域大会などにきちんと出席、参加して、名前と顔を次第に覚えられるようになったら、パイプ仲間として自然に認められることになる。その上でお問合せ頂きたい。

急がば回れだ。

 

私は真贋判定の方法を自分限りの秘伝や秘訣にする考えは全くない。むしろ多くのパイプ喫煙愛好家に知って頂き、その方々と協力して贋作や偽物をできる限りこの世から駆逐したいと思っている。

私が信頼信用できるパイプ仲間と思った方には、全ての真贋判別方法を伝授する。

 

さて、先日の東京大パイプショーでお会いした若いパイプ愛煙家の中に、若い頃の私自身を彷彿とさせる方が何人もおられた。つまりダンヒルこそ最高のパイプだと信じるダンヒル信奉者の方々だ。

ダンヒルパイプでタバコを喫うと、タバコの味が断然良くなると思っておられるパイプ愛好家の方のYouTube動画をたまたま拝見したこともある。笑うつもりは全くない。嘗ての私自身がまさにそうだったからだ。微笑ましいと思うだけだ。

 

確かにダンヒルはハズレが極めて少ない優れたパイプメーカーだ。どのダンヒルパイプも長年寝かせて十分乾燥させた最高級品質のブライアーだけを使って、練達の職人が高度の加工技術で、タバコの味わいまで考えて1本1本丁寧に製造している。他のパイプメーカーにはなかなか真似ができない高水準のパイプばかりだ。

 

一時期、私自身もダンヒルパイプに惚れ込み、数多くのダンヒルパイプを購入して、「ダンヒル以外のパイプは喫わない」と偉そうにほざいていた。今から顧みれば、まことに汗顔の至りだ。

 

世界には多くの優良なパイプ製造会社がある。

多くの卓越したハンドメイドの作家もおられる。

ダンヒルパイプ信奉に凝り固まってしまい、そうした会社や作家のパイプを試さない、嗜まないのは、パイプ喫煙の素晴らしい楽しみの一つを自ら閉ざすことだと思う。

 

私の拙文を読んで下さるパイプ愛煙家の読者諸賢はそんなことはわざわざ言われなくとも良く分かっているわい、とお思いだろう。

しかし、嘗て熱狂的なダンヒル信奉者だった若き日の私自身を、今や老境に至った私が時間を飛び越えてやんわり諭すという構図で、「良いパイプとは何か」について私見を少し語らせて頂きたい。

 

良いパイプとは何か?

それは、タバコを美味しく味わえるパイプである。

「君は何を当たり前のことを言っているのか」とのお叱りは当然、覚悟している。
 ただ、同じタバコを喫っても美味しく味わえるパイプと、そうではないパイプがあると思わないか?

 

私は50年ほど昔、ラタキア葉系はこのパイプ、オリエンタル葉系はこのパイプ、バージニア葉系はこのパイプと、タバコ葉の種類によってパイプを使い分けていた。私がパイプ初心者で多くのパイプをひたすら集めていた頃、敬愛するパイプの先達から最初にご教示頂いたやり方だ。

自分自身で試してみて、確かにこの方法が良いと得心し、ずっと続けていた。1本だけ集中して使わず、日替わりで葉を変えると、複数のパイプを使うからパイプが長持ちする。 今でもこの方法は基本的に間違っていないと思う。

 

ところがある時、どの種類のタバコ葉を喫っても美味しく最後まで味わえるパイプに出逢った。

それがダンヒル社製のパイプだった。以来、ダンヒルパイプに夢中になった。100本をゆうに超える本物のダンヒルパイプを買い集めた。試喫してみてハズレは少なかった。ハズレだと思ったパイプは、後日、ダンヒル営業部長氏直伝の真贋判別法で偽物ダンヒルだと分かった。ダンヒルパイプだと、高級なタバコ葉はもちろん、普及品の安タバコでもそれなりに美味しく味わえた。

 

人並みのダンヒル通になって、毎日、ダンヒルパイプでプカプカ燻らせていた頃、なぜか急に少し浮気してみたくなった。どんな堅物でも人間、男女を問わず浮気心は誰にもあるはずだ。私はもともと堅物ではない。そこで昔買ったP社製のパイプが目に止まったので同じタバコ葉を味わってみた。ところが、豈図らんや、ダンヒルパイプに勝るとも劣らず美味しくタバコが喫えるではないか!

 

私のダンヒル信仰は間違っていたのか、私のタバコ味覚は狂っているのかと、唖然とした。そこで気を取り直してP社製のパイプを数本取り出して試喫した。その結果、P社製のパイプの中には、美味しくタバコを味わえるものがあるが、そうではないものもあるという当たり前のことに気付いた。

 

つまりどのメーカー製品も、パイプには当たりハズレのばらつきがかなりあるということだ。運良く当たりのパイプだったら良いが、そうでなければ費やしたお金が無駄になる。P社製以外の多数のパイプも試したが、やはり当たりハズレのばらつきが相当あった。(なお、ハズレのパイプを当たりパイプにかなり近付ける裏技風の方法もあるが、誰でも簡単に出来る方法ではないので、これはまた別の機会に紹介したい)

 

ダンヒルパイプは当たりがほとんどで、ハズレが少ない。お金が無駄になる恐れが低いのだ。他社のパイプも高価な高級パイプになればなるほど、ハズレは少ない。だからと言って廉価パイプがハズレとは限らない。安価な普段使いのパイプでも、タバコを美味しく喫えるものはたくさんある。

 

つまり、ダンヒルパイプ以外にも、タバコを美味しく喫える良いパイプは無数にある。だから「ダンヒルでなければ」という考えは、ブランド偏重の考えだと思う。

もし1本だけしかパイプを持たないというお考えなら、私はダンヒルパイプあるいは高価なパイプの購入を強くお勧めする。しかし、殆どの愛煙家はそうではない。高級品、廉価品など多くのパイプを所持なさっているだろう。その中から、自分が美味しくタバコを喫えるパイプを見つけて愛用するのが一番だということだ。

 

以上が熱烈なダンヒル信奉者だった私が、半世紀のパイプ遍歴を重ねて辿り着いた平凡な結論だ。

 

ところで、先日の東京大パイプショーで若い愛煙家の方から、作家のハンドメイドパイプについてのご質問をいくつか頂いたので、実用重視派の立場から私見を多少述べてみたい。

 

趣味のパイプ喫煙を長年続けていると、誰しもメーカーの既製品のパイプでは少々飽き足らなくなってくる。自然、作家のハンドメイドパイプに関心が向くようになる。ただ、作家もののパイプはとても高価だ。十万円、二十万円以上のお金を費やして、もし極めて運悪くハズレだったら、ショックだ。試喫してみてから購入するわけにはいかないから、作家ものの購入は一種の賭けに近い。

 

運悪くハズレだったら、そのパイプ作家に連絡して、ある程度直してもらうことも可能ではあるが、快く直して下さる親切なパイプ作家ばかりではない。皆さん作家としてのプライドが高く、パイプについての一家言の持ち主だから、通常は嫌な顔をされる。「君の喫い方が悪いんだよ」と講釈されるのがオチだ。

ある程度親しい関係になれば渋々手直しに応じてくれようが、人間関係に傷がつく。だから実績と定評がある高名なパイプ作家の作品が無難だが、如何せん値段がべらぼうに高い。

 

幸い私は、パイプの先輩の紹介で日本を代表するパイプ作家のS氏、O氏らとお近づきになることが出来たので、国内作家のハンドメイドパイプでハズレに遭遇したことは殆ど無い。「喫ってみてナンボ」のパイプ本来の実用性を最重視する私としては、とても運が良かったと思っている。

 

ただ一般に作家ものはデザイン性と木目の美しさ、ブライアーの複雑な曲線に重きを置き、タバコを美味しく味わうための実用性は二の次になりがちだ。見事な工芸品としてパイプを飾りたいというお考えなら。それで良いだろう。

 

喫煙の実用品として作家のハンドメイドパイプを考えておられるなら、若い作家、売り出し中の作家は如何だろう。愛好家の間で市場評価がまだ固まっていないから、ハンドメイドパイプとしては相当廉価だからだ。有名パイプ作家のパイプに手を出すのは、生活にゆとりが出来る経済力がある程度ついてからでも遅くない。

 

経済力に限界がある若いパイプ愛煙家にとっての最も良い方法は、ハンドメイドパイプを自作してみることだ。良い原木を探して買って、デザインを考案して、時間をかけて丹念に作ってみる。パイプに対する造詣が深まるし、ひょっとしたらご自分の隠れたパイプ作りの才能に気づくかもしれない。今でも高名なパイプ作家も最初は見様見真似で自作から始めたのだ。

 

私のお気に入りのパイプ

 


1.ダンヒル金巻 値段だけ見ればこれより高価な記念パイプやDRがありますがこのパイプが一番好きです。

2. 佐藤純雄 パイプのボウル部分を漆で仕上げてあるので15年使っても綺麗です。

3. 大井誉四郎 このパイプは大井さまが柘製作所に入社して最初に作られたイケバナの大井モデルです。大井さまのパイプはバージニア、ラタキア全て美味しく吸えます。

4. 無名の作家 素人が3人集まり作ったパイプです。