大会記

大会参加記

ワールドカップLVIV2019大会出場記
岡山パイプクラブ会長 香山雅美

日本中がラグビーのワールドカップに盛り上がっている時に、日本のパイプ愛煙家を代表してパイプスモーキングのワールドカップ大会に出場して参りました。

ワールドカップ・リヴィヴ2019はウクライナの西部地区のリボフで10月13日(日)に開催され、世界中から62クラブ、254名が参加しました。日本からは2009年のハンガリー・デブレツェンWC以来、10年ぶりに日本パイプスモーカーズクラブ(JPSC)と岡山パイプクラブの2つのクラブから計6名が参加しました。

ここ数年の日本からのWC参加は「日本代表チーム(チームジャパン)」としての出場であり、2つのクラブが同時に参加したのは今回で2度目です。

ロングスモーキングの技を国別対抗戦と個人戦で戦う4年に1度の世界選手権大会と違って、世界選手権の前後の年の即ち2年に1度開催のワールドカップ大会はクラブ対抗戦と個人戦で競います。だから2つのクラブチームの出場は喜ばしいことです。

大会前日の12日には国際パイプクラブ委員会(CIPC)の総会とパイプアカデミーの会合が開かれ、それぞれ柘恭三郎CIPC副会長とJPSCのA氏が参加。また、同日午前10時からの大会参加登録受け付けと合わせてパイプショーが開催されました。

パイプショー

今回のパイプショーでは、ハンドメイドのパイプ作家の作品やパイプメーカーから多くの新作パイプが展示即売されました。特に隣国のポーランドからのパイプ作家と新規参入のメーカーの存在が目立ちました。ウクライナからはパイプ作家たちが出店していましたが、デザイン面で凝りに凝った工芸美術品のようなパイプが目を惹きました。無言で立っていたり、おしゃべりしていたりで、一生懸命売ろうという態度ではなく、自分の自慢の作品を見て欲しいという感じでした。リヴィヴ・パイプクラブの方に伺ったら、ウクライナには個人の趣味で作るパイプ作家がかなりいるが、パイプメーカーは無いとの由です。

パイプショーの会場はマレヴィッジ・クラブという東欧で最大の規模というディスコクラブの玄関脇のロビーでした。歴史的建造物が立ち並ぶ旧市街地の外側ですが、幹線道路に面していて市の中心にあるオペラ座から徒歩5分程度で、我々が泊まったホテルからも徒歩7─8分と便利な場所にありました。

会場は約150m2程度であまり広くはなく、10店ほどが出店していました。無粋にもパイプショーの会場内は、禁煙だというので、世界中から集まったパイプスモーカーの皆さんは建物の外でパイプをたっぷり喫って、短時間、会場に入って商品を探し、また会場外で一服嗜むという有様でした。ウクライナにも、米国から伝来の忌まわしき嫌煙全体主義が蔓延っていることを感じました。

入場するにはゴリラのような巨体で凶悪な面相の用心棒(つまり警備担当者)数人に取り囲まれて持ち物検査とボディーチェックを受けなければなりません。リヴィヴは全体に治安が良い印象でしたが、ウクライナは隣国ロシアと武力衝突一歩手前の緊張関係にあるので、テロを警戒しなければならないのでしょう。

パイプショーが始まる午前10時前に会場に入った岡山パイプクラブのK氏は、ポーランドのパイプ作家から、斬新なデザインと確かな木工技術のハンドメイドの高級パイプを真っ先に買い求めました。日本で買えば、軽く20万円は超える工芸品水準の逸品でした。嬉しいことにポーランドの物価水準での販売価格でしたので、その差額だけで日本―リヴィヴ間の往復旅費とホテル代が出る計算です。私も見習って同じポーランド人パイプ作家から1本買い求めました。

ポーランドのパイプ作家2人が並んで作品を売っていましたが、片やEUの物価水準で価格をつけ、もう片方はポーランドの物価水準での価格でしたので、安い価格をつけた作家の作品は次から次に売れ、もう片方の売れ行きはさっぱりでした。ちなみに日本でのハンドメイドパイプの価格は、EUの価格水準よりさらに高いと感じました。

マシーンメイドのパイプも売っていました。ポーランドの製造販売業の社長夫妻で、丸顔にロイド眼鏡、カイゼル髭のユーモラスな風貌の主人とエキゾチックな美貌の妻のコンビで熱心に売っていて、人だかりがして売れ行きは上々です。私も手にとってみましたが、品質が良い割に、良心的な価格設定という印象でした。

パイプショッピングの目利きのK氏はここでも、1本だけ売っていて、なぜか業者の美貌の奥さんが胸に当てて握りしめていた洒落たデザインのシガリロ用のブライアーのキセルを目ざとく見つけて「それを売ってください」と指差して素早く買い求めました。格安でしたから日本人のパイプ仲間の羨望の的となっていました。上手な買い物の秘訣は即断即決ということでしょう。

残念だったのがパイプタバコの販売が少なく、しかも価格も高かったことです。外国からの輸入品だから関税がかかって高くなるとの説明でしたが、シガレットが1箱200円程度で買えるのに、パイプたばこと葉巻は日本の価格の8割程度でした。お土産用と自分用にパイプタバコと葉巻を沢山買って帰ろうと思っていましたが、結局、購入しませんでした。店の売れ行きを見ても、さっぱりだったようです。

ガラディナー

午後6時から、リヴィヴ市内の高級ホテルの2階の大宴会場を借り切って前夜祭のガラディナーが盛大に催され、約300名が参加して、楽しく交流しました。各国のパイプ仲間の多くの友人知人に1年ぶりに会えて楽しいひと時でした。

まずリヴィヴパイプクラブ会長の歓迎の挨拶と開会の辞(ウクライナ語)に続いて、国際パイプクラブ委員会(CIPC)のコルネリウス・クランス会長が「酒と食事が準備してあるので長く話しません」と英語とフランス語で短い挨拶をするとすぐに宴会が始まりました。英語による逐語通訳をして下さったのが、リヴィヴ空港まで出迎えに来て下さった知的風貌のウクライナ美女。リヴィヴパイプクラブの会員だそうです。彼女は鈴を転がすような美声の方で、ウクライナ語訛りの英語は歌うような独特の抑揚で、うっとりと聴き惚れました。

席の選択は自由で、会場中程の10名が座れる円卓に日本からの参加者7名が座って、厳しい風貌のポルトガル紳士2名とドイツ・ケルンパイプクラブの熟年美女1名で和気藹々の内に楽しく歓談。盛大にワインやビール、ウイスキーが振る舞われ、壇上の楽団による民族音楽やクラシック、ポピュラー音楽を伴奏に美酒美肴に舌鼓を打ちながら歓談しているうちに宴もたけなわになり、ダンス音楽が始まりました。

壇上の下の踊り場で、数組のパップルが踊り始めたのを見た岡山パイプクラブのH氏が私に「そろそろご自慢のダンスを皆さんに披露しては如何?」とそそのかして、私を連れてポーランドのパイプクラブの席に案内し、場内で一際目立つご婦人(昼にパイプショーで出会ったパイプ販売業者の妻のエキゾチック美女です)に「奥様。ご主人が離席中にまことに不躾ですが、岡山パイプクラブの会長が出来ましたら貴女とダンスのお手合わせを願いたいとのことです」と仲介してくれました。彼女は「喜んでお相手させて頂きますわ」と微笑んで応じて、ワルツ、ブルース、スローフォックストロットなど数曲付き合って下さいました。これほどの美女と一緒に踊ったのは、私の人生でも稀有のことでした。

やや残念だったのは、会場の宴会場が禁煙だったこと。たばこが飯より好きな愛煙家の集まりですから、次々に会場外の広いテラスに出て、立ってパイプを吸いながらの賑やかな国際交流です。

H氏がルーマニアのパイプクラブの若い面々と親しげに話していました。なんでも彼らは昨年の東京・浅草での世界選手権大会に出場して日本観光を楽しみ、日本のラーメンが気に入ってルーマニアに戻ってからも見よう見まねでラーメンを作って食べているとの由。H氏と私が「まだルーマニアには行ったことがないな。近いうちにブカレストでWCを開催してくれれば、必ず行くよ」と持ちかけると「よし、わかった。立候補する。ルーマニアを訪ねてくれたら、ドラキュラ伯爵で有名な俺の故郷のトランシルバニアに案内する」と約束してくれました。

H氏が正会員となったスロヴァキアのパイプクラブ・ニトラの面々にも紹介して貰って、柘氏、A氏、K氏に彼らを交えてパイプを喫い、アルコール類を飲みながらテラスで愉快に歓談しているうちに、あっという間に時間が過ぎてガラディナーはお開きとの案内がありました。H氏やK氏らは「飲み過ぎて食べ過ぎた」と言って宿泊先のホテルに歩いて戻りました。しかし、夜の9時過ぎはヨーロッパの連中にとって、まだ本当の宵の口です。そこから夜の社交を徹底的に楽しむのが欧州流です。彼らがテラスに自前のワインやウオッカを持ち込んで盛り上がっているので、私も合流して11時過ぎまで愉快に付き合いました。

今回のガラディナーは宴会場内は禁煙ということで、やむなく宴会場の外の広いテラスに出て、パイプ喫煙を楽しむしかありませんでした。参加者は宴会場から次々にテラスに出てがパイプを喫うので、テラスはいつも超満員。宴会場で席が離れていた多くの外国のパイプ仲間とも自然に話して顔見知りになり、楽しく交流を深められたので、結果としてはそう悪くなかったと思いました。

WC大会本番

さて本番のパイプスモーキングのWC大会は翌日の午後1時から、パイプショーも並行開催のマレヴィッチ・ディスコクラブのダンス場で開催されました。日本パイプスモーカズクラブからはA氏、S博士、K教授のインテリ三羽ガラス。岡山パイプクラブからはH氏、K氏、私の3名が競技に参加しました。CIPC副会長の柘氏は、壇上の来賓席でCIPC会長とウクライナパイプクラブ連盟会長と並んで観戦でした。

着席は指摘されており、岡山パイプクラブの3名が陣取ったテーブルにはニトラパイプクラブのメンバーも一緒でした。H氏はニトラのメンバーでもあるので、和やかに雑談して緊張感もなく試合に臨めました。JPSCの3名はオランダのパイプクラブのメンバーと一緒で右手2階席のテーブルでした。

主催者のリヴィヴパイプクラブ会長、ホスト国のウクライナパイプクラブ連盟会長、CIPC会長の挨拶や報告に続いて、大会運営委員による競技ルールの説明、使用たばこの説明等が続きました。例によってウクライナ語、英語、フランス語でそれぞれ行われるために時間が掛かったのはいつも通りです。通訳は昨夜のガラディナーのウクライナ美女。

周囲を見渡すと、世界記録保持者で優勝の常連の髭もじゃのイタリア人哲学教授はの姿は見えませんでしたが、過去180分以上のタイムを記録した強豪連中があちこちの席に10人以上。優勝か上位入賞を狙って一か八かで煙を絞りに絞って挑戦してみようかと、決心がつかないでいたら、隣席のH氏が「消えるリスクの高い150分など狙わずに、確実に120分を目標にしたら、結構上位に食い込めるのではないか」とアドバイスをしてくれたので、少し気楽に大会に臨めました。

大会使用パイプはスタンウエル。銀色のリングに大会ロゴのライオン像がレーザー加工で入れられ、ボウルの裏にはこれもレーザーで「Would Cup Ukraine Lviv」と掘られていました。格調が高く見目の良いビリヤードパイプです。このパイプは、日本では大会に参加した6人と柘氏の7人しか持っていません。国内のどこかの地方大会に参加する際に持参して、自慢しようかなどと、つまらぬことを考えている内に、競技を始める案内が流れました。

タバコは予め各テーブルの計時員に配られており、参加者全員に配布されたのを確認して、計時員が手に持ったグリーンのカードを掲げました。5分間のタバコ詰め、そして電光掲示板の5から始まるカウントダウンを唱和して、ゼロを合図に競技開始です。

ヨーロッパ諸国の方々のロングスモーキングの喫い方の特徴は、ボウルの中のたばこの火種の燃焼具合をじっと見つめる時間の方が、パイプを咥えてゆっくり燻らす時間よりもはるかに長いということです。

パイプを咥えている時も、燻らすよりもタンパーを使っている時間が長いです。タンパーに灰をつけて取り、テーブル状の揉みほぐし紙の上に擦り付けるので、紙は真っ黒になっていきます。誰がこうした方法を始めて普及させたのか知りませんが、若い人ほどこのやり方で徹底しています。時々、一斉にタンパーをテーブルに打ち付けて騒々しい音を出すのも若い人がほとんど。

私は、そうした方法を横目で眺めながら、いつもの通り自己流の喫い方でゆっくりと燻らせました。

消えた人が申告すると、計時員が記録票にタイムを記入、確認サインを求め、計時員の横の木製の棒の上に置きます。競技会場内を廻っている係員が回収して集計所に持って行き、パソコンに打ち込むと、壇上奥にあるスクリーンに、現在時刻と、競技継続者が残り何名という表示に反映されます。

岡山パイプクラブはビリから10番目くらいの速いタイムでK氏が消えました。さすがに残念そうです。1時間を超えたあたりで、残り人数が80名となり、H氏が最後に灰混じりの煙をブーっと盛大に噴き出して消えました。「体調不良でしばらく練習を怠っており、今回は欲を出さずに60分吸いきりを目指していたので、予定通りです」と囁いて静かに退場しました。

JPSCはK教授が30分前に消えて、一礼して席を離れました。続いてすぐにS博士が消えました。A氏は一人で頑張っていましたが、70分ほどで消えました。後日、S博士から伺った話ですが、JPSCが陣取った2階のテーブルの計時員は時計職人風の偏屈な初老の男性だったそうで、威圧的な雰囲気で他の和気藹々の雰囲気のテーブルが羨ましかったそうです。

岡山チームのH氏、K氏、JPSCのK教授、S博士の4名は、この後の夜のトルコ航空便で日本に帰るので、表彰式などには出ないで、市内のレストランで一緒に食事してからリヴィヴ空港に向かうとの由。日本での近いうちの再会を約束して別れました。

さて、競技会場に残っている日本人は私一人だけになりました。いささか寂しいものがありました。100分を過ぎた頃、ボウルの中を覗くと予想外にたばこが残っていたので、これは存外、良い記録が狙えるぞとつい欲が出てしまいました。そこで、煙を少し絞ったらあえなく失敗してしまい、107分で消えてしまいました。吸い切って消えるなら後悔はありませんが、まだ20分以上は吸える位の量のたばこを残してしまったのは、いささか残念でした。

私の挑戦はここで終わりました。消えて計時員に申告した際に、電光スクリーンを眺めると、競技継続者は33名との表示でした。入賞を逸し、賞品もないなとやや気落ちして会場を立ち去り、パイプショーを見て時間を潰していました。

ところが、電光スクリーンは、各テーブルを回った係員が記録票を集めて担当者がパソコンにて入力したのを表示しているため、時間差があります。私が消えた時刻に実際に残っていたのは私を含めて24名だったのです。従って私は個人戦24位で何とか下位入賞。今回は30位まで賞品があったので、ありがたく頂戴しました。

賞品授与は上位から自分が欲しい物を選んで貰える方式でした。パイプはファルコンしか残っていなかったので、逡巡していたら、係の人が「こちらからも選べますよ」と案内されたのが、ピューター(錫合金)のARTINA社のコーナーでした。トロフィーの様な大きな花瓶や2リットルは入るビアジョキもありました。どちらもガラスとピューターのコンビの良い物でした。

他にもワインクーラー等ありましたが、私が一番小さいショトグラスを選んだら、係のおばさんが驚いた表情で「何故こちらの豪華な賞品を選ばないの? こちらの方が遥かに価値があるわよ」と力説されました。私は「大きな賞品を頂くと、大きなスーツケースを新たに購入しないと飛行機に乗れないので」と説明したら、納得していました。

実は「日本で買えば高い品物だろうな」とも一瞬思いましたが、機内持ち込みOKのリュックサックでフットワーク良く行動していますので、この判断には正しかったと思っております。


今回の記録

岡山パイプクラブ

合計タイム 3時間11分32 秒  参加62クラブ中、30位
香山 雅美:107分29秒(個人戦24位)
H氏 64分23秒
K氏 19分40秒


日本パイプスモーカズクラブ

合計タイム 2時間13分37 秒  46位
A氏: 70分12秒
S博士: 34分0秒
K教授: 29分25秒

1位、2位がイタリアのクラブ、3位がハンガリーのクラブでした。


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